14日にオーストラリアから帰国した。
アーネムランドのあとシドニー、ダーウィンと所用で巡った。
帰国後、ジャルーを撮影したビデオや写真を編集して、
来年のジャルー来日公演のプロモーションコマーシャルを作成した。
このコマーシャルを作成しながら、ジャルーとの会話を思い出した。
英語が片言の彼だが、よく話しかけてくれる。
「いつ帰るんだ?」「イダキがほしいのかい?」「この土地はガルプの土地なんだ」・・・。
彼はまるで子供か孫に話しかけるように。でもそれは別に自分に限ったことではない。訪れた誰に対しても同じように接してくれる。
ウミガメを捕まえた日、彼がウミガメを裁いているのをじっと見ていた。
ある程度さばききった後に、一人で彼が座っていたので、話しかけた。身振り手振り、ヨルング語と英語混じりで、ウミガメ猟をみたのは2度目で、1度目はエルコ島だったこと、そのときはとてもショックを受けたが、今回は冷静に受け止められたことを伝えた。
すると彼はこういったのだ。
「以前より強い心になったんだよ」
なぜかこの言葉に目の前が明るくなり、心に何かが流れ入ってきたように感じた。
強い心になったのか?むしろ、いろいろなことにくよくよせずに、強い心になれ、と言われたような気もした。
来年のジャルー来日のため、今回のアーネムランド訪問はとても重要なものだった。インタビュー収録、コンピレーションCDのジャルーの音源確保、ドキュメンタリー・フィルムの制作、宣伝用の写真の撮影など・・・。
それでも時間は限られている。2泊3日のギカルでの滞在中にすべてやり終わらなくてはならない。
イリカラには4日の夜到着。いつものようにジェレミーが迎えに来てくれていた。翌5日金曜日の午後、スキービーチに戻っているジャルたちを迎えに行きギカルへ向かうという。出発の前にギカルでの食料などいろいろナランボイ(ゴーブ)にて買い込み、あとはガソリンを入れてスキービーチへ行こうとしたとき、ガソリンスタンドでジェレミーが「ジャルが来ているから挨拶してきなよ」という。目の前に背を向けた長老がいる。でも最初はジャルとわからなかった。でもこっちを向いた姿を見たら、やっぱりジャルだ!!うわあ~今までの髪型の中で最も短い!すっかり若返ったジャルは自分を見つけると口元がニッとゆるみ、握手を求めてきた。
元気そうだ。
その後、ファミリーを何人か乗せて、ジャルの車と2台で、ギカルへ向かった時はすでに6時を回っていた。
昨年5月マタマタへ行ったときに立ち寄ったギカル。そのときの道筋をなんとなく覚えていたのだが、それでも思いの外時間がかかった。
ギカルについたのは9時頃だった。ギカルにはすでに数名のヨルングがいるのがわかった。でも電気もない場所なので、顔が全くわからない。ジャルの息子のバーノンとミララがいるのはわかった。
翌日、日が昇ると同時に起床。2軒しかないギカルの家の前には美しい海が広がる。あまりにも穏やかな海だったので、波の音を収録した。すると日が昇るにつれて多くの虫に囲まれて刺されまくった。
テントに戻るとジャルが起きてきた。ドフィア(ジャルの奥さん)も起きてきた。朝食をちょうどとっているところだった。昨日暗くて渡せなかったプレゼントを渡したり、子供と遊んだりしていたら、ダンガル(ジャルの妹)とジェレミーと数名で釣りに行くことになった。海岸沿いを歩いていくと、やがて一行は森の中へ。ちょうど海に突き出ている半島の先端へ向かって歩いた。着いたところは海が一望出来る断崖だった。風光明媚とはこういう場所のことをいうのだろう。行くとすでにダンガルたちは釣り糸を垂らしている。しばらく釣り糸を垂らしてぼ~っと海を見ていると、黒い陰が海の中に見える。最初はウミガメだと思った。でもよく見ると、尾びれがみえる。「ジュゴンだ!!」始めてみたジュゴン。ほんの一瞬だったがはっきりとジュゴンの全身がわかった。ジェレミーも4年すんでいてジュゴンをみたのは初めてだったそうだ。
その後もサメやらウミガメやらいろいろみることができた。
ミララたちは、マタマタまでボートを取りに行って僕らが釣りをしていた海の前を通り過ぎた。遠くでウミガメ猟をしている。しばらくすると米粒みたいに見えるボートが傾く。どうやらウミガメが採れたようだ。
ひとしきり釣りを終えてギカルへ戻ると、海岸に捕獲したウミガメをおろしていた。その後は以前体験したウミガメの解体作業がはじめる。今回の解体人はジャルだ。やっぱりこの人たちは狩猟採取民族だ。目つきが違う。子供たちはウミガメのそばでキャッキャと騒いでいる。若い青年たちは解体したウミガメの内蔵をうれしそうに見つめている。
ひとしきり解体がすむと、火で蒸し焼きにする。蒸している間、ジャルと話をする。自分はエルコ島ではじめてウミガメ猟を見て、今回は2回目だと話す。1度目はかなり動揺したが、今回は大丈夫だと伝えると、「心が強くなった証拠だ」と自分の膝をたたいた。少しうれしかった。
その後、インタビューをして、ダンスを見せてくれた。ジャルははじめビルマをならしながら踊りの指示をしていたが、すぐに飽きてしまう若者たちに業を煮やしたのか、自分で踊り始める、今度はイダキを吹く若者が飽きればイダキを吹き始める。はじめてジャルの唄も聴いた。一人で何役もこなしていたジャルは本当に元気だった。
翌日はバーノンが大きなKing Fishと呼ばれる大きな魚をしとめたり、森に行ってイダキの木を切ったり、ブッシュハニーをとったり、この2泊3日は内容の濃いものだった。
ここに来る前には少し生命力が落ちていたのだが、74歳のジャルに大きなエネルギーをもらった。彼には本当に恩返しをしたい。彼の来日までより全力で取り組もうと、決意を新たにした滞在だった。